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ナチュラルライフで迎える人生の再スタート
退院後の現実
~朝、ベッドから降りる時に感じた、回復の本当の始まり~
第12話では、
「ここから始まる、新しい日々」
というタイトルで、
この連載のひとつの区切りを書きました。
手術は、人生を止める出来事ではなく、
人生をもう一度広げていくための一歩。
焦らず、比べず、自分の歩幅で。
そんな思いを込めて、
これから始まる新しい日々への希望を綴りました。
けれど、実際に退院してみると、
その「新しい日々」は、
ただ明るく前向きなだけのものではないのだと感じています。
退院してから、
現在は週に3日、リハビリに通っています。
病院を退院したからといって、
すぐに以前と同じ生活に戻れるわけではありません。
頭では、わかっていたつもりでした。
手術が終わっても、
退院しても、
そこからリハビリが続いていく。
身体が新しい動きを覚えていくには、
時間が必要なのだと。
でも、それを本当の意味で実感するのは、
日常の中のほんの小さな瞬間です。
たとえば、朝。
目が覚めて、
ベッドから降りようとする時。
何も痛みがなかった頃と同じように、
何も考えずに身体を動かそうとする。
足を下ろして、
そのまま自然に立ち上がろうとする。
でも、その瞬間に、
「あれ、まだ足が思うように動かない」
と感じることがあります。
その時に、
あらためて現実を感じます。
手術は終わった。
退院もできた。
でも、身体はまだ、
以前と同じようには動かない。
その事実が、
朝の静かな時間の中で、
ふっと目の前に現れます。
痛みが強いというよりも、
思うように動かないもどかしさ。
頭では動こうとしているのに、
身体がまだついてこない感覚。
以前なら何も考えずにできていた動作に、
今は少し意識が必要になります。
ベッドから足を下ろす。
身体の向きを変える。
立ち上がる前に、
少し呼吸を整える。
足の位置を確認する。
ゆっくり体重をかける。
そんな一つひとつの動作が、
今の私にとっては、
大切なリハビリの一部なのだと思います。
退院する前は、
家に戻れば少し安心できると思っていました。
もちろん、
自分の場所に戻れる安心感はあります。
見慣れた部屋。
いつもの空気。
黒豆の気配。
家に戻ってきたからこそ感じられる、
ほっとする時間もあります。
けれど同時に、
病院とは違う現実もあります。
病院では、
手すりがあり、
高さが整えられ、
必要な時にはすぐに声をかけられる環境がありました。
でも日常生活の中では、
すべてがリハビリになります。
ベッドから起きること。
椅子に座ること。
トイレに行くこと。
お風呂に入ること。
階段や段差を意識すること。
物を取ること。
向きを変えること。
歩くこと。
どれも、以前は当たり前だったことです。
でも今は、
その当たり前の一つひとつを、
もう一度、自分の身体に合わせて覚え直しているような感覚があります。
退院は、ゴールではありませんでした。
むしろ、
本当の意味での回復の始まりなのだと思います。
病院の中でのリハビリは、
先生方に見守られながら行う時間でした。
でも退院後の生活は、
毎日の暮らしそのものがリハビリになります。
朝起きることも。
歩くことも。
着替えることも。
少し外に出ることも。
黒豆と同じ空間で過ごすことも。
その一つひとつが、
今の身体と向き合う時間です。
正直に言えば、
焦る気持ちがないわけではありません。
早く普通に歩きたい。
早く自由に動きたい。
以前のように、
何も考えずにベッドから起き上がり、
自然に一歩を踏み出したい。
黒豆ともっと気軽に歩きたい。
写真を撮りに行きたい。
ゴルフにも、少しずつ近づいていきたい。
そんな気持ちは、
もちろんあります。
でも、焦ったからといって、
身体が急に回復するわけではありません。
むしろ焦りすぎると、
余計な力が入り、
本来使うべき筋肉ではない場所に負担がかかってしまう。
リハビリを通して、
そのことも少しずつ感じています。
だから今は、
身体に対して、
急がせるのではなく、
問いかけるように向き合っていきたいと思っています。
今日は、どこまで動けるかな。
どこに違和感があるかな。
昨日より少し楽になったところはあるかな。
無理をしていないかな。
ちゃんと休めているかな。
そんなふうに、
自分の身体の声を聞きながら、
一日一日を過ごしていく。
これも、私にとってのナチュラルライフなのだと思います。
そして退院後に、
心から感謝したことがありました。

それは、
入院中にプランターの花を植木屋さんに預かっていただき、
面倒を見ていただいていたことです。
自分が思うように動けない間、
家のこと、仕事のこと、黒豆のこと、
そして花たちのことも気がかりでした。
でも、戻ってきた花たちを見て、
思わず驚きました。
預けた時よりも、
倍くらいの大きさに育っていたのです。
葉は生き生きとして、
花も元気に咲いていて、
大切に面倒を見てもらっていたことが、
一目でわかりました。
花は、正直です。
水をもらい、
光を浴び、
手をかけてもらうと、
ちゃんと応えてくれる。
その姿を見て、
植木屋さんが愛情を込めて面倒を見てくださったことに、
あらためて感謝の気持ちが湧いてきました。
入院中、私自身も、
先生方や看護師さん、
リハビリの先生方に支えていただきました。
そして家に戻れば、
花たちもまた、
誰かの手に支えられて元気に育っていました。
人も、花も、
支えられて育っていく。
そんなことを、
戻ってきたプランターたちが教えてくれたように感じました。
ナチュラルライフとは、
特別なことをする暮らしではありません。
朝の光を感じること。
身体の重さに気づくこと。
無理をしている自分に気づくこと。
黒豆の気配にほっとすること。
季節の空気を感じること。
花たちの成長に、
誰かのやさしさを感じること。
そして、
今の自分の歩幅を受け入れること。
退院後の現実は、
決して華やかなものではありません。
でも、その中には、
小さな気づきがたくさんあります。
ベッドからゆっくり降りられたこと。
昨日より少し足が出しやすかったこと。
立ち上がる時の不安が、
ほんの少し減ったこと。
リハビリに通えたこと。
先生に身体の状態を伝えられたこと。
無理をせず休めたこと。
そして、
戻ってきた花たちを見て、
支えてくれた人の存在を感じられたこと。
そんな小さな一つひとつが、
回復への大切な積み重ねなのだと思います。
以前の自分と比べれば、
できないことに目が向いてしまう日もあります。
でも、今の自分を見れば、
ちゃんと前に進んでいることもあります。
手術前の痛みの中で、
歩くことをあきらめかけていた自分。
その頃の自分から見れば、
今こうしてリハビリに通い、
新しい身体と向き合っていること自体が、
大きな一歩なのだと思います。
退院してから感じる現実は、
時に厳しく、
時にもどかしく、
時に少し寂しさもあります。
でもそれは、
新しい人生が本当に始まったからこそ見えてきた現実なのだと思います。
手術が終わったから終わりではない。
退院したから完成ではない。
ここから、
毎日の暮らしの中で、
少しずつ身体を取り戻していく。
少しずつ自信を取り戻していく。
少しずつ、
自分らしい日常を作り直していく。
その時間が、
今の私に与えられているのだと思います。
朝、ベッドから足を下ろすその一瞬に、
現実を感じる。
でも同時に、
その一瞬は、
今日という一日を始めるための最初のリハビリでもあります。
今日も、ここから始まる。
今日も、自分の身体と向き合う。
今日も、支えてくれる人たちへの感謝を忘れない。
今日も、焦らず、比べず、自分の歩幅で進んでいく。
そう思いながら、
私はゆっくりと足を床に下ろします。
退院後の現実は、
思っていたよりも静かで、
思っていたよりも地道です。
でも、その地道な時間の中にこそ、
本当の回復があるのだと思います。
これからも週に3日のリハビリを大切にしながら、
日々の暮らしの中で、
新しい身体と少しずつ仲良くなっていきたい。
そしていつか、
朝、何も考えずに自然にベッドから立ち上がれる日が来た時、
きっと私は、
またひとつ大きな幸せに気づくのだと思います。
焦らず、比べず、自分の歩幅で。
退院後の現実を受け止めながら、
私の新しい日々は、
今日も静かに続いていきます。
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